あの頃に戻るのだったら
8月17日 木曜日 晴れ
残りの人生、あとは「闘病」だけではないか。
たまに、そんな寂しいことを考えてしまうことがある。
もし戻れるのであれば、、、
学生時代、アルバイトをしていた、あの時に戻りたい。
バイトにも慣れてきた頃、新しいバイトの女の子が入ってきた。
なぜか、おれが教育係に任命された。
ほんわかとしたかわいい子だった。篠田麻里子をちょっとむっちりさせたような感じ。
大学近くの定食屋だったので、彼女はすぐに男子学生の話題になっていた。
おれも、教育係だったのもあるけど、よく喋るようになった。
女の子「学校でどんな勉強してるんですか?」
おれ「コンピューターの勉強してる」
女の子「コンピューターの授業で宿題があって、もしよかった今度教えてもらえませんか?」
おれ「え?い、いいけど」
ただ、おれはまったく積極的ではなかった。シャイだったのだ。
それに、店長から店の女の子には手を出してはだめ、みたいなことをやんわりと言われていた。バイトの子同士で付き合うと結局別れることになってどちらかが辞めていくのを何度も見ているから、そんなことになると困る。そう言われた。
教えるとは言ったものの「いつ」とか「どこで」とか、自分から言い出すのは恥ずかしかった。
そんな状態のまま、1週間ぐらい過ぎた休みの日、電話が鳴った。
その時代まだ携帯も普及していなかったので、受話器の向こうで女の子の声がしてびっくりした。実家以外から、かかってくることなんてなかったから。
女の子「忍耐さんですか?」
おれ「うん、よく電話番号わかったね」
女の子「店長に教えてもらったんです」
店長グッジョブ!
おれ「どうしたの?」
女の子「先日言っていた勉強教えてもらう件なんですけど、いつだったら大丈夫かなと思って」
おれ「明日バイト?だったら、ちょっと早く行くから2階借りて勉強しようか」
女の子「そうですね。はい、お願いします」
おれ「うん、じゃ明日。」
ガチャ。
休みの日に、わざわざ店長に電話番号聞いてかけてくれたのに、このありさま。
この程度のことで、好意があると勘違いするのも良くないと思っていたけど、今だったら
「今日、暇?もし良かったら、ごはん食べにいかない?」
ぐらい、絶対言う。なぜ、あの時この言葉がでなかったのか。
次の日の勉強会もあっさり終わって、それから、彼女とは特になかった。
しばらくして、おれがバイトを辞めるという話をしたとき、ちょっと寂しそうだった彼女の顔が忘れられない。
人生何が起こるかわからない。
次のチャンスをものにするために、この教訓を忘れずに後悔しないように生きていかないといけない。
残りの人生、「闘病」だけじゃないかもしれないから。
そんなことを考えながら、ラーメンをススル。