わさびさん
8月26日 土曜日 雨上がり晴れ隊
いつものコアワーキングスペース。
唯一、光学マウスが使える席が取られていた。
いや、自由席だから仕方がないんだけども。
いつも11時ぐらいに来る人だけど、平日はおそらく誰も座らないのでその時間にきても座れるのだろうが、土曜日、早朝から必ずその席に俺が座っている。
なので、頑張って早起きしてきたのだろう。
おれのせいで早起きさせてしまったのだったらごめんなさい。
でも、おれもその席が好き。来週は負けない。
先日「くら寿司」に行った。
いや、「スシロー」でも「かっぱ寿司」でもどこでも良かったのだが、自宅から徒歩圏内となると、どうしても「くら寿司」になってしまう。
世間は平日だったので、そこまで混んでおらず、すぐに案内された。
「くら寿司」はマグロが美味しい。マグロを3皿注文した。
さび抜きなので「わさび」は自分でつけることになる。
わさび大好きなのでたっぷりつけて食べる。
「つーーーーん」
背筋がピンとして「シャッキ」っとする感じ、好きだ。
そう、あの人もそんな感じの人だった。。。
おれが、社会人一年生の頃、どこかのサイトのメル友募集に、その人はいた。
ハンドルネームは「わさび」だった。
5つ年上の女性だった。メールでの文通が始まった。
その人は、アパレルで働いていたが、体調を崩して退職していた。
コンピュータの勉強をして、そういう関連の仕事を探そうとしていた。
その人のパソコンにはFreeBSDがインストールされていた。
びっくりした。釣りかと思った。
でも、そういう人だった。初心者なのに玄人の雰囲気が漂っていた。
すべての事に、こだわりが感じされた。
しばらく文通を続けるうちに、おれのほうから「会いませんか?」と持ちかけた。
「いいよ」と彼女。
一人、妄想が膨らんでいたおれは、眠れない日々が続いた。
ある日、夢を見た。
わさびさんが夢にでてきた。
待ち合わせ場所には「永作博美」があらわれた。
やっぱりおれの妄想ではなかった。理想通りの女性があらわれた。
夢の中で何を話したかは覚えていない。ただただ興奮していた。
おれは、さっそく夢の中で会ったことをメールで伝えた。
「永作博美には似ていないけど、髪型は同じかも。最近切ったんだ。」
彼女のメールにはそう書いてあった。
髪型が合っていただけでも、運命的なものを感じた。
会う当日、おれの緊張はマックスに達していた。
高島屋の前で待ち合わせをした。暑い夏の日だった。
入り口のクーラーで涼む人たちの中に、
サングラスをして、ひときわ目立っていた。現実が妄想を超えた瞬間だった。
いっしょにごはんを食べに行って、たわいもない事を話して、お別れした。
会ったのは、その日が最初で最後だった。
その後も何度かメールのやりとりはあったが、
彼女から「彼氏」ができたことを伝えられた。
おれの方から、もうメールはしませんとだけ、出した。
「来るもの拒まず、去るもの追わず、私は今まででそうしてきたし、これからもそうする。また、メールしたくなったらしてね」彼女からの最期はそんなメールだった。
わさびを食べて「ピリ」っとした時、たまに彼女のことを思い出す。
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夜、いきつけの居酒屋に行った。